2020年5月12日
スマートフォンの普及や技術の進歩により、個人情報を含む莫大なデータをビジネスに活用することができるようになり、それまでに無かった新しいサービスが近年続々と誕生しています。ITの技術で金融サービスをより便利にするフィンテックもその一つです。
一方、ユーザーの目に見えないところで企業が勝手に個人情報を取得、利用するといった悪質な事例もたびたび発生しました。
現在、EUでの一般データ保護規則(GDPR)の施行をはじめとして、世界中でデータ保護の動きが高まっています。企業が個人データを濫用できた時代が過ぎ、一人一人が「自身のデータをコントロールする」という当然の権利を取り戻す時代になりつつあり、消費者のデータプライバシーに対する意識も高まっています。
大きく時代が変化している一方で、創業時から一貫して個人データ保護に真摯に取り組み、ユーザーやクライアントの信頼を獲得してきた企業として、マネーツリー株式会社より、代表取締役・共同創業者であるポール・チャップマン氏とプロダクトマーケティング ディレクターである山口賢造氏にお話を伺いました。
代表取締役・共同創業者 ポール・チャップマン氏とプロダクトマーケティング ディレクター 山口 賢造 氏
ポール氏 創業前からプライバシーに関して一個人として気にしていて、またインターネットのオンラインビジネスモデルに興味を持っており、第二回のテックバブル崩壊前から個人情報を中心にどのようなビジネスができるのか、そして一個人としてどのようなビジネスが好ましいのかを考えていました。2011年頃、日本ではスマホアプリを提供している銀行はほとんど無かったので、ユーザーニーズがあると思って検討し始め、結果的に2012年の4月に公式に法人を設立しました。
最初の目標としては、複数の金融機関に預けているデータを一ヶ所にまとめてスマートフォンで見られるようにすることでした。当時金融機関のアプリはほとんど無かったですし、アプリがあったとしても自分の現状、財務状況を把握するためには3つとか4つ、5つのアプリを入れて交代で見る必要がありました。それをアプリ一つで見られたら大変便利だなと。なによりも消費者、生活者のニーズが重要でした。その上に何らかのビジネスモデルが作れると信じていました。
iOSアプリ「Moneytree」
こうして、個人で複数持っている金融関連のアカウントを接続し、アプリ一つで銀行口座やクレジットカード利用状況をまとめて確認できる個人資産管理サービス「Moneytree」がiOSアプリとしてリリースされました。しかし、リリース後も個人情報に関する問題を、一般的にどう理解してもらうかについて、様々な議論を重ねていました。
ポール氏 日本人ではなく、日本での経歴も長くない人間として、投資家やクライアントに我々の正直なアプローチをどうやって証明するかという課題がありました。もちろん直接話したり、実績を積み重ねたりしていければ信頼は得られると思うのですが、当時はそれを中立的な立場からどう証明してもらえるのかという問題がありました。
また当時は、別のサービスに金融機関のユーザー名やパスワードを預けることをためらう人が多かったんです。
山口氏 ぼくは当時まだ外部の人間でしたが、あるご縁でポールから話を聞いたときは日本では無理だなとまず思いました。おそらくそれまでの日本の人たちの感覚でいくとインターネットバンキングのID、PWを第三者に預けるということが一般的な習慣として存在しませんでした。そのため、銀行や企業から見れば「自分たちのデータベースを勝手に横取りしている」という認識で見られるんじゃないかと思われて、当時話を聞いたときにこれは無理だろうなというのが第一印象だったんですね。
でも、よくよく考えてみれば、一個人としてIDとPWを預けて、自分のデータを企業に提供しているという、企業側からではなく、個人の側面からサービスを考えることが私にはなかったので、なるほど!と感激したのをよく覚えています。TRUSTeに目を付けていたのはその点だなと思っています。プライバシーと言う側面から真剣にサービスを考えるとこういうことが可能だという。ローンチ後に、アップルなどプライバシーを大事にする会社から評価していただいたのも、そういったところが着眼点として大きかったのかなと思っていました。
――2013年に個人情報保護第三者認証マークのTRUSTeを取得いただき、ほどなくアップルのベストアプリも受賞されましたね。
ポール氏 はい、2年連続で受賞しました。TRUSTeを皮切りにしてアップルからの信頼も得られ、かなり影響は大きかったです。ただ、すぐではなかったです。すぐに大人気になったというわけではなく、約一年くらいかかりました。でも信頼は貯金と一緒で、少しずつ貯蓄して増えた結果、ここまで増えたというようなことだと。
――2015年には、金融機関向けに、金融インフラプラットフォーム「Moneytree LINK」も提供を開始されました。他にも、TRUSTeの影響を実感されたエピソードなどはありますか?
最新のクラウド技術によって銀行口座、クレジットカード、電子マネー、ポイントカード、証券口座の取引明細を一つに集積し、様々なシステムと連携可能なデジタルバンキングツール「Moneytree LINK」。その採用企業は60社以上に拡大しています。(2020年3月現在)
ポール氏 ちょっとしたことだと思われるかもしれないのですが、例えば、法人のお客様にお会いしてお話しするとき、我々からプライバシーをとても重視していると話すだけではあまりピンと来ないことが多いです。しかし資料等にTRUSTeのマークを貼ることでそれを証明、可視化することができるようになりました。
――ありがとうございます。プライバシー保護というのはまさに御社のように自ら実施するべきことで、我々はそれにより一層価値を与えるような存在かと考えていますので、非常に良い活用の仕方をされていると思います。
ポール氏 もうひとつは、経営者、株主としての観点からなのですが、TRUSTeには、社員の教育にも本当にプライバシーの観点が含まれているのか、社員が個人情報に対してどのように考えているのかを証明してくれるだけでなく、保証してくれるような効果があります。当社はプライバシーバイデザインという枠組みの概念を中心にサービス設計、商品設計、開発、運営、管理を行い、しっかりと教育も実施しています。社員のプライバシーに関するリテラシーは一般の企業に比べて非常に高いです。
――また御社は、iOSアプリに続けて、Web、Android版でもTRUSTeの認証を取得いただき、おそらく業界で初めて全てのプラットフォームで導入されました。我々としても大変インパクトがあったと記憶しています。
ポール氏 我々のポリシーは、グレーゾーンがなるべく出ないようにすること、利用者が大丈夫かどうか迷うような行動はしないことです。もしずる賢くやるならばiOSだけ取得して他のも網羅的に取得しているように見せることもありえますが、それは我々のポリシーとは真反対ですね。
――今後TRUSTeに期待されることはありますか?
ポール氏 ひとつは従業員向けのトレーニングコンテンツですね。TRUSTeの良いところはプライバシーと情報セキュリティの両方から審査を行うところだと思うのですが、トレーニング用のコンテンツでそれらを組み合わせたものはなかなかありません。セキュリティとプライバシーを組み合わせたかたちで、年間で2、3回くらい、社員が自分の知識を楽しく、手軽にリフレッシュできるようなプログラムを提供していただけると嬉しいなと思います。
我々はスタッフ全員教育してケアしているとはいえ、忘れてしまうこともあるでしょうし、日常業務の中では個人情報にそれほど触れない者もいます。次の業務で生きる知識として、どうやって社員に教育するべきかという段階までたどり着けたのかなと思っています。
――実は当機構も企業向けの個人情報保護研修も行っています。組織の階層別に提供するものなのですが、5時間程度のプログラムなので気軽さはあまりありませんが、求められるものを提供したいと思っております。
ポール氏 もう一点あります。当社はTRUSTeマークを取得している他の企業より、数倍以上はプライバシーについて取り組んでいると思います。TRUSTeの取得そのものに必要なレベルは我々からすればとても基本的なレベルです。もちろんとても良いものだと思っていますが、マネーツリーとしては非常に高いレベルを目指しているので、この点を証明していただけるのであれば面白いと思います。
――おっしゃること非常によくわかります。言うなればTRUSTeは取得だけを考えると一律のラインでしかなくて、御社のレベルがとても高くても見た目は他の取得企業と一緒になってしまっています。なかなか難しいところはあるのですが、そこのところも考えていきたいと思います。
山口氏 私からも一つ付け加えたいことがあります。実はファッション業界で、今一番何に気をつけているとブランド価値が上がるのかというと、「エコ」らしいんですよね。作った服をちゃんとリサイクルできているか、自然に対して優しいアプローチをとっているか、そこがファッション業界のひとつのトレンドになっているらしいです。これに注力している会社はすごくステータスが高いという認識があって、ひとつのブームをつくっているわけですね。
そうするとこれまでエコじゃなかった、いろんな地域で従業員をぞんざいに扱いながら大量生産していたような会社が非難されて、今慌ててエコだエコだって言い出し始めているわけです。それで第三者的な機関が調査をすると、このブランドは何もやっていません、などと分かるわけですよね。そうすると一気にブランドが下がります。
私がこの話を聞いてなるほどな、と思ったのは、我々の業界でのプライバシーの話がまさしくそこに当てはまるなと思いました。当社は創業時からプライバシーのことがポールたち創業者のメンバーの意識に強くあったことが強みになると思います。
またプライバシーに注力してきた会社が一番お客様の信頼と売り上げが伴って伸びているということも顕著なデータとしてありますから、我々としても、もっと日本のメーカーさん含めてプライバシーの観点を重視したサービスをつくる会社がどんどん出てくることを期待しています。
――ありがとうございます。おっしゃられる通り、プライバシーに対する真摯な取り組みがこれまでにも増して求められていると我々も感じています。その中で御社の創業時からのプライバシーへの徹底的な取り組みは、非常に強いインパクトになると思います。我々もTRUSTeマークの普及を通じて、これまで以上に企業のプライバシーへの取り組みを後押ししていきます。
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